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元練習船教官がおススメする、実習生の時に身に付けておいた方が良いこと

更新日:2022年10月9日

お給料が高い分、仕事環境の特殊さなど、独自のハードルがある船乗り。


そして、多くの船乗りを目指す学生が避けて通れないのが乗船履歴取得のための練習船での乗船実習です。


目的や意義が分かれば、より有意義な時間が送れます。


私自身の「実習生時代」実体験と、指導体験の両方の視点を元に、実習を乗り越えるため、そして将来良い船乗りになるために、『実習生の時に意識して身に付けておけば良かったなぁ。。』という事や今だからこそ分かる、実習の意味をまとめました。


これから実習に挑む方の参考になれば幸いです。


目次

 1.「実習後に、戦力として乗船する」と意識する

 2.チームとして動いている自覚を持つこと

 3.大きな声は良いこと尽くし

 4.船や周りの人の動きを察知できるように心掛ける

 5.時には無理をしない

 6.心身ともにタフになる

 7.昔の基礎から、現在のルーツを知る

 まとめ


 

1.「実習後に、戦力として乗船する」と意識する


商船系の学校へ進学する事は、一般の大学や高専、高校に進学するのとはまるで違います。


一般的な同年代の普通科の勉強もこなしながら、その上で船員になるための訓練を受けなければなりません。大変です。


一度練習船に乗船すれば、「学生」ではなく「実習生」となります。実習生は一般学生とは違い、就職後に即現場へ出て仕事をしなければなりません。


自身が「実習が終われば即戦力として乗船する」という気概を持って練習船での実習に臨む事ができれば、心身ともに仕事を開始するための準備が進み、現場に出たときに周りにも自分にもプラスに働きます。


もちろん、それでも就職して現場へ出ればなかなか戦力にはなれないのが普通ですので、あまり気負い過ぎる必要はありません。


 

2.チームとして動いている自覚を持つこと


船では、ルールや時間は守らなければなりません。 なぜか?自分たちの安全が揺らぐのと、会社が損害を被るからです。


このような話があります。 某海運会社がアジアの某港でPSC(ポートステートコントロール)の検査に引っ掛かり、3日間、港を出港禁止になりました。その後PSCから「改善し、再度検査を受けなおしてから出港する」か「一時金として何百万ドルの罰金を支払い、出港する」かを選ぶよう言われました。 会社は則罰金を支払い、即日出港しました。 それぐらい、到着時刻に遅れる事で損失が出るという事です。



一般の仕事でも同じかと思いますが、船では一人の行動が、周りの船員、会社、荷主に与える影響が大きいです。


大きな損害が出た場合、特定の人が悪いという話には収まらず、船・会社全体の責任となりますので、実習生が社会人になった後に自分の身を守るためにも、一人ひとりの行動が全体に与える影響を、肌身を持って学ぶ機会があることは大切です。


練習船ではチームでの団体行動を身に付けるため、班行動をします。

お互いに部屋の外から大声を出してでも統一して行動できるようになり、協力しましょう。

それでも、どうしても協調性のないメンバーが班員だという事は必ずありますが、これは一般の会社でも、実際に船員として働き始めても起こること。


経験上、相手に直接不満をぶつけたり、叱りつけると反発を招き、益々関係はこじれて誰も得をしません。まずは、相手との人関関係の土台を作ったうえで、いい点は褒め、直すべき点は指摘することで、より良いチームができていきます。


違う視点ですが、「できる限りの事はしている」という態度を示すことも一つの手です。これは社会人になってからも使える一つのスキルです(笑) 必ず最低限、「自身はここまでやっている」という事を示せるようになりましょう。


 

3.大きな声は良いこと尽くし


船では風の音、波の音、機械の音… と、常に様々な騒音の中で作業を進めます。また、環境上、マイクやメガホンを持って動き回る事も難しい環境が殆どです。


そんな時、仲間に危険が迫っている、事故に繋がりそうな時、相手まで届く「大きな声」は絶対に必要です。これは特に、「訓練」を受けて身に付ける事として意外と重要です。


また、大きく元気な声は、上司の覚えもよく(笑)、周りの人に元気を与えます。船の上ではどんな受け答えも、自分が大きすぎると思うぐらいの声で行うように心掛けましょう。

 

4.船や周りの人の動きを察知できるように心掛ける


現場の船では様々な状況が目まぐるしく変化します。 それは気象・海象の影響をモロに受ける海上である事や、特殊な機械を積んで常に移動している事などが原因です。


五感を使って」少しの変化にも気づけるように心掛けましょう。


例えば、自分は仕事時間ではないので部屋で休んでいても、「いつもよりも○○の音が大きい」「いつもと違う匂いがする」といった事から、「他の人間が騒がしい」といった事まで、気を配らないと、何かトラブルがあり、気づいた時には手遅れ、なんてこともあるわけです。


特に現場の船では少ない人数で船を運航しています。トラブル対処には少しでも多くの人手がある方が、損害を最小限に抑えられることもあります。


この点は私自身、いかに実習生時代は同じ部屋の仲間がいて楽だったかを身に染みて感じました。仲間がいると、誰か一人が気づいてくれれば分かりますし、誰か一人が情報を持ってきてくれるだけで部屋員全員、共有できるわけです。


働き出して一人部屋になり、休みの時間に部屋で寛いでいると機器にトラブルがあり皆大慌て。私は部屋でゴロゴロしていて後々周りからひんしゅくを買う…なんてことも(笑)

船では「なんか皆バタバタやってるなぁ~私は今休みだからしーらない♪」なんて事はできません。良い意味でも悪い意味でも皆、「一蓮托生」です。


 

5.時には無理をしない


乗船実習はあくまで「自身が志望して受けている実習」です。

中には船という独特の環境にどうしても合わない、精神的・肉体的につらいという方もいるでしょう。


そんな時には遠慮なく自身から下船する意志を伝え、実習を中断して陸に帰りましょう。


練習船の教官には実質、実習生を下船させる力はありません。国の多額の税金を投入し、日本という国を維持するために必要な船乗りを一人でも多く輩出するというのが仕事です。


教官から色々と厳しい事を言われる時もあるかもしれません。もしどうしても耐えられないときは、疲れ果ててしまう前に、しっかりと「実習を辞める」意志を伝えましょう。


「学校を留年してしまう」といった事よりも、何より、自身の心身が大切です。高校なんて、大学なんて、何度でも入学できるのです。

 

6.心身ともにタフになる


船員という職業には、本当にタフな方々が多いです。私は今でも頭が上がりません。それは上下関係が厳しい特有の環境や気象・海象の厳しさによる環境から来るものでしょう。


①精神面 はっきりと申し上げましょう。船では未だに「パワハラ」多いです。(これは現船員の方々も今後のために肝に銘じておいてください)


どうしても、世代による格差はあります。元々上下関係が厳しい事と、閉鎖的空間での少人数での職場環境というから、意図せずとも若い世代の人たちが「パワハラだ」と感じる事も、普通になってしまっている状況が見受けられます。


実習生時代から、多少のキツい事を言われたり、怒られたりしても、心折れないタフさを身に付けましょう。ここで身に着けたタフネスは、あなたの人生にとって、必ずプラスになりますので。(練習船の教官がパワハラをして良いというわけではありません。当然、教官でもダメです。


勿論、現場の船からはパワハラは撲滅しなければなりません。一人ひとりが心がけて変わっていかないと、この業界はどんどん厳しくなるでしょう。




②身体面 船は現場仕事なので、力作業もあります。もちろん、生まれながらの体格差等、個人差はありますので全員がムキムキマッチョになれというのは無理な話ですが、ある程度、身体を動かせるようでなければなりません。


また、つらい環境に耐えられるようになりましょう。寒い時・暑い時…山程あります。そんな環境の中でも作業しなければならないのです。



練習船での実習の中で、「甲板流し」という実習があります。


真冬に裸足で甲板へ出て、朝から水を流しながら甲板をヤシの実で磨きます。実習生からすると「ただの苦行」でしょう。というか、大人だって嫌がる人が大半です。


ですが、嫌がらせをしているわけではなく、裸足である事にはきちんと意味があります。

それは、「船内の危険な箇所を知る」という事です。

船内や甲板上には、どうしても突起部がある事や、摩擦の強い部分があります。そのような所を「ケガをしないように普段から見て身体で覚えておく」「できるだけ不要な危険箇所を無くし、安全な船を作れるように整備できる目を養う」事が重要なのです。


練習船で実習を始めてみれば分かりますが、事実、乗組員さんは裸足で歩きません。甲板流しの時も長靴を履いています。それは「万が一実習生がケガをしそうになった時に事故を防ぐ」ためです。


つまり、甲板上には裸足で行っては危険な部分があるわけです。ちなみに、ヤシで磨く事ができるのは木甲板だけです。裸足でも確実に安全だと言い切れるのは、木という柔らかい素材でできていて、かつ毎日磨かれ、滑らかになっている木甲板だけなのです。



もちろん、その他の金属製の甲板部分も丁寧に整備はしており、ケガに繋がるリスクは低いですが、万が一の事があります。その時に実習生を監督している側の人間まで裸足では防ぎようがありません。


木甲板を磨く際にヤシの実を使用しているのも同じ理由です。もちろん、「伝統が…」なんて事もありますが、ヤシの実だと、「自然と磨く対象が木の部分だけになる」からです。ヤシの実持って金属を磨きに行く人はなかなかいません(笑)


逆に「デッキブラシの方が便利じゃん」なんてやると、デッキブラシだと金属部分も掃除しやすいですから、誤って金属部の方に裸足で踏み入り、滑ったり切ったりしてケガをしてしまうリスクが増えるわけですね。


また、しゃがむ態勢で磨くことにより、注意深く観察することができ、自然と姿勢も低くなり、転倒のリスク等も低くなるわけです。


昔は帆走中、甲板上の傾斜がある時でも実施していたそうですから。(現在は安全面からやらなくなりました)


少し話が逸れてしまいましたが、せっかくの実習ですから、「浸水して船内の床が見えなくても安全に移動できるように注意深く船内・甲板上を観察する」「裸足でも歩けるぐらい通路部は普段からきれいに掃除する」といった事を心掛けてみましょう。




また、裸足で「水の冷たさに耐える」事にも訓練的な意味があります。 それは「真冬の海水がどれだけ冷たいか」を知る必要があるからです。船では、冷たいからといって、水に全く濡れずに作業する事は難しいです(もちろん、濡れないに越したことはないのですが)また、万が一、事故で船が浸水、遭難…といった際に真冬の海水に身体が触れるのが「初めて」か「初めてはでない」とでは、大きく違うのです。身体の慣れももちろんですが、精神的な面が大きいです。


なんだ、根性論じゃねぇかー と思うかもしれませんが、「過酷な状況でも精神面をどれだけ正常に保っていられるか」というのは事故の際の生存率を大きく左右する要素なのです。

足の感覚が無くなっても、何が何でも、生き残らなければならないのです。


 

7.昔の基礎から、現在のルーツを知る


練習船で実習を受けていると、ほとんどの人が感じる事があるのが、「今の時代にこれを教わっても、古くて役に立たないのではないか?」という疑問ではないでしょうか。


個人的にはよくよく教官が言う「昔の物が基礎で、そこから自動化や電動化されてきたのだから、まずは基本を忠実に学ぶ事が必要」というのは「当たらずとも遠からず」だと感じています。


そう、つまりは「そういう面もあるし、そうでない面もある」です。(笑)


例えば、帆船。 船というのは気象・海象に大きく左右される(というかほぼその対応)わけで、例えエンジンでしか走らない現代の船でもそれは同じ事です。


エンジンでしか走らないからと言って、風や波、潮流を気にせず航海をすると経済的な運航ができないどころか、船自体を危険に巻き込む可能性さえあります。そういった気象要件に直で影響されるのが帆船の特徴です。


そういった面から、日本だけでなく、世界で見てもある一定数、海軍や商船学校に帆船教育が残っているのでしょう。


ただ、現在の日本では、なかなか帆走自体実施しておらず、教える側の人材不足・技術不足もあり、応用して働き出してからも役に立つ帆走教育がなかなかできていないのが現状です。


その他、実際に船員として働き出して、「実習で学んだけれど、役に立っているのか?」と疑問に思う事も多々あります。


実習生時代から、「こんなん役に立つわけない」と最初から放り出すのではなく、「どのように応用していけば良いだろうか」と良い意味で疑問を持ち、働き出してからも活用していければ良いかもしれませんね。


 

まとめ


いかがでしたでしょうか。

実習を通じて船乗りを目指す気持ちをもった方も、実習生時代を乗り越え船乗りとして働いている方も、少しでも参考になった部分があれば幸いです。


あくまで個人的な見解としてこのように記事を作らせて頂きましたが、一番重要なのはこのような事を「自分自身で気付くこと」だと思っています。


ただ「教わる」だけでなく、「教えてもらえない」のではなく、「自身の気付きを学びに繋げる」事がより人としての成長に繋がるのではないかと感じています。


そして自身は後輩に「自分で覚えろ」ではなく「自分で覚える事ができるように教える」事が手間のかかる事ではありますが、より骨太な人材育成への近道であると考えています。

今後、より多くの人が船の大事さを知り、海運業界に憧れ、海運業界に明るい未来が訪れるよう、願っております。


 

著者について 氏名:高島 大輔(仮名) 職業:船舶関連機器メーカー勤務 保有資格:3級海技士(機関)・第1級海上特殊無線通信士 経歴・船種: 商船系大学➡三等機関士➡メーカー勤務 船員を目指したきっかけ:海への憧れ インタビュー・加筆修正:ITecMarin株式会社 写真: https://www.photo-ac.com/ , https://stock.adobe.com/jp/



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