艀(はしけ)とは?
一度は目にしたことがあるけど、名前まで知っている人は少ないかもしれません。
時代とともに艀(はしけ)の数・目にする機会が少なくなったことが原因かもしれません。
しかし!
この艀、水深の関係で貨物船などが入れない河川や運河などの内陸水路や、港湾内の輸送で重い貨物を輸送することができるスゴイ船なのです!
輸送効率や環境負荷の低さの点でも優れており、テムズ川やライン川などでも活躍しています。艀が夕日に照らされて、なんとも幻想的な光景を演出することもあります。
今回は、そんな艀の知られざる役割、仕事の中身をのぞいてみましょう!
【目次】
1.艀とは? 輸送量・エコ、実はすごいんです
艀とは、かんたんに言うと、河川や水深の浅い海で貨物を運ぶために作られた船で、そのほとんどは推進器を持ちません。そのため、タグボートに曳かれたり、押されたりして航行しています。
輸送貨物は、ばら積み貨物、砂・セメント・石炭・穀物や重量物です。
艀は、推進器を持たない分、船体の大部分を荷室にすることができ、自力で航行する貨物船と比べると、船体サイズ比積載量が多く、効率的に貨物を運ぶことが出来ます。
また、一隻のタグボートで一度に何隻もの艀を曳航することができるため輸送効率が高く、ウインチ(巻上げ機)や発電機以外に電力をほとんど使わないため、省エネという面でとても優秀です。
トレーラーの荷台部分が艀、ヘッド部分がタグボートとイメージしていただければわかりやすいと思います。
ではなぜ、艀が減少しているのか。それは、荷役の効率化・合理化の粋ーコンテナ船ーの誕生がきっかけです。
コンテナ船誕生により、人類は荷役時間・人件費の縮小に成功し、海運物流の効率が大幅に改善しました。大型貨物、特殊貨物など、コンテナ輸送できない貨物を運ぶ船はあまり影響を受けなかったものの、艀の需要には影響が出ました。
しかし、近年、地球温暖化対策(CO2削減)として、モーダルシフトという取り組みが行われています
(*モーダルシフト:CO2排出量の多いトラックや新幹線による貨物輸送を、大量輸送が可能な(CO2排出量が少ない)海運や鉄道に転換する活動)
もちろん船や鉄道ではいけないような内陸部における輸送にはトラックが必要不可欠ですが、近距離の港や岸壁への輸送に艀が注目されるようになり、コンテナ専用の艀も登場するようになりました。
それによりCO2排出量の削減に加え、港周辺の道路の渋滞解消にも効果が出ており、これから艀でのコンテナ輸送が増加することが期待されます。
2.艀で働くとは?仕事の中身を見てみよう
さあ、2章では、実際に艀で働くひとの仕事内容の一部を紹介していきたいと思います。
会社によって異なる場合もありますが、積み荷の管理、艀の管理・メンテナンスが艀の船頭の主な仕事となります。
①荷積み
積荷は、お客様から預かった大切な荷物です。目的地まで届ける道程の一部かもしれませんが、そこで問題が起こってしまえば、荷物を無事に目的地に届けることはできません。
艀にはトラック数台~数十台の荷物が一度に積み込まれます。中には大型・重要物・高価な物もあり、事故が起こると甚大な損害が発生します。その分、無事に貨物が目的地に到着し、引き渡せた際の達成感はひとしおです。
艀に荷物を積む際のバランスも、最終的には船頭が確認し、バランスが悪い場合には積み直しの指示を出します。船は常に不規則に揺れており、気象や地形、他船の航行にも影響を受けるので、航行する海域や気象情報を踏まえて、荷崩れや転覆が起こらないように最終判断を行うのです。
②積荷管理
荷積み後は、目的地に到達するまでの間、積荷の管理をします。中には、艀に積まれた貨物が、次の目的地で揚げてもらうのに数カ月かかるような場合もあります。
その間に、大雨や台風に見舞われることもあるので、貨物を守るために、シートを張ったり、強風への対策を行います。
③艀の管理
艀の船底に穴が開くと、船が沈みますので、常に船底に水が入ってきていないかをチェックすることも大切な仕事です。
艀を岸壁に繋いだり、他船の横に繋いだりする場合には、船頭が自らロープを取ります。位置を動かす場合には、風や潮の流れを計算しながらウインチでロープをまいて移動します。
艀自体に推進器がないため、航行はタグボートにより曳航されますが、全てタグボートにお任せというわけではありません。慣れてくると、風や潮を読み、流されて少しの距離なら、自力で移送することも可能です。
殆どの船には碇がついていますので、碇を落とすタイミングや長さを変えることで、止まりたいところで艀を止めて待機することも可能です。
3.免許なしでなれる!海で働くキャリアとしての艀
海の仕事は気象に左右されやすいため予定が立ちにくく、艀の仕事は待機時間が長いため、仕事の半分以上が待ち時間と言っても過言ではありません。
基本一人なので、空いた時間をどう過ごすかは船頭によって異なります。
艀のメンテナンスやスキルアップのための勉強、他の船頭との情報交換や、趣味・副業も可能です。
船の仕事と聞くと、免許を持っていないとできないというイメージをお持ちの方もいらっしゃると思いますが、艀は推進器がないため、船舶免許は必要ありません。なので、船の仕事に興味があれば、その第一歩として艀の船頭というのも選択肢の一つになりえます。
船の基本を学べ、他船の船乗りや港湾関係者の方と知り合う機会も多々ありますので、そこから自分の可能性を広げていくことも1つの選択ですね。
艀という船、その仕事内容が認知され、海のキャリアを目指す人の選択肢が増えることの一助になれば幸いです。ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。
【著者について】
氏名:徳永 紘一(仮名)
職業:タグボート船 船長
保有資格:船舶免許
経歴:旧海員学校を卒業➡遊覧船の会社に就職➡タグボート船船長
インタビュー・加筆修正:ITecMarin株式会社
写真:筆者提供
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