ITecMarin

2020年4月12日9 分

春から船乗り方になる方に贈る言葉

最終更新: 2022年10月7日

春から晴れて船員になられる皆さん。おめでとうございます!
 

 
皆さんより少しだけ先に内航船員になった私から、老婆心ながら、春から船員になる皆さんにささやかなエールと、アドバイスを送らせて頂きます。

すでに家族や学校の先生、先輩方にたくさんの激励の言葉をもらっているものと思いますが、何か1つでも参考になるものがあれば幸いです。

どうか最後までお付き合いください。
 

目次

 仕事がうまくいく心構え① ~気負わない~

 仕事がうまくいく心構え② ~命に係わる、預かる仕事をしていると認識する~

 仕事がうまくいく心構え③ ~何事も学びにする~

 仕事がうまくいく心構え④ ~ダメなものは声を上げる。無理し過ぎない~

 仕事がうまくいく心構え⑤ ~船内融和とコミュニケーション~

 最後に

➡参考動画


仕事がうまくいく心構え① ~気負わない~
 

スタートラインはみんな同じ。いきなり即戦力になんてなれません。
 

 
いきなり突き放すようなことを言うようですが、現場で働く私たち視点から言わせて頂くと愛情です。

皆さんは航海訓練所の練習船、大成丸をご存知でしょうか?


 
大成丸を作る際、内航船員として即戦力となる人材を育成して欲しいという要望が数多く寄せられ、実際そのような仕様に建造されたと聞きました。

ですが、新卒で即戦力になるのはムリです。

最初からバラストが出来なくたって、航海が出来なくたって、錆打ちが出来なくたっていいじゃない。船員人生、新卒なら40年以上。最初から完璧にできる人なんていません。


 
それより私たちが新卒の方に最も期待する"即戦力"は、挨拶ができること、返事ができること、メモを取れること、素直に人の話を聞けること、掃除が丁寧であること、整理整頓ができること。

分からないことは分からないと素直に言えばいいのです。確認しましょう、教えてもらいましょう。どれも社会人として当たり前のことをばかりです。これができれば大丈夫、立派な未来の戦力です。

しかし、内航船は人手不足、実際そんな悠長に新人を育てている余裕のない船社さんが多いのが実情です。理不尽に上司から叱責されることもあるかもしれません。

だからといって自分を責めないでください、追い込まないでください。できないのが当たり前。怒っている上司も、新人の頃はあなたと同じように怒られてきたのです。

それにめげず、理想とする人を見つけその人の後を追いかけてみてください。きっとあなたは20年後、30年後その人に近づけます。追い越せます。

自信を持って。スタートラインはみんな同じ。新卒のあなたの武器は、挨拶、返事、素直さです。


仕事がうまくいく心構え② ~命に係わる、預かる仕事をしていると認識する~

一般の会社でも同じですが、危ないことをすると怒られます。

理不尽と思うような叱られ方をされることもあるでしょう。


 

でも待ってください。船内は陸の仕事とは違い、事故が起きたり怪我をしても助けはすぐには来ません。そんな環境の中、上司はあなたや、乗組員みんなの命を預かりながら仕事をしていることを忘れてはなりません。


 

もちろん、効率の良い教え方が出来ない上司もいるでしょう。 効率よく教えてくれたら怒鳴られなくて済んだのに、最初から手順を教えてくれていれば失敗せずに済んだのに。そう思うことも多々あるでしょう。


 

ごめんなさい、それは目を瞑ってください、上司たちも教育のプロではありません。加えて、昔ながらの業界です。言葉で伝えることが不得意な上司もいるでしょう。それでもあなたたちの命を守ろう、乗組員の命を守ろうと必死なんです。

何かあってからでは遅いのです。海や風を相手に、自然の力は強大です。大きな機械を目の前に、人が勝てるはずもありません。そういう環境に自分が身を置いていることを、もう一度念頭に置いてみてください。

それを忘れなければ、あなたが先輩になった時、意義のある指導ができるようになっているはずです。


仕事がうまくいく心構え③ ~何事も学びにする~

想像してみてください。
 

 
あなたはお茶係(なかなか買い物に行けない船上生活。新人さんは仕事中に飲むコーヒーやお茶の在庫管理、買い出しをすることが多い)、みんなで飲むコーヒーのストックを切らしてしまい上司に怒られました。

『今時新人がお茶汲みなんて馬鹿らしいよな。』
 

そう思ってしまう気持ちも分かります。しかしこれは全く意味のないことではないのです。

あなたはいずれ医薬品を担当する衛生担当者になるでしょう、自己点火灯やSARTを管理するかもしれません。機器の予備品のインベントリーを作成するかもしれません。

そういったときに、一つでも何か欠けていては、期限が切れていてはNKの検査に通らないかもしれませんし、労務官から指摘を受けるかもしれません。その時の練習だと思えば(というか実際そうです)怒られたことだって少しは意味が見えてきます。

他にも、トイレ掃除が不十分と怒られたとしましょう。これがトイレなら不衛生で終わります。でもこれがあなたの担当機器だったら?綺麗に日頃から掃除されてなければ、油漏れや荷物漏れに気付けないかもしれない。

そういうことです。

怒られてむっとしても少し冷静になって、その意味を考え、勉強・学びに使ってしまいましょう。それがあなたにとって一番得なのです。


仕事がうまくいく心構え④ ~ダメなものは声を上げる。無理し過ぎない~
 

前述した、命を守るための指導。理由のある指導。


 
これらは怒鳴られてもぐっと歯を食いしばり、次に活かしましょう。

ですが残念なことに、そういった指導以外の行き過ぎた指導やいじめも存在します。私感ですが、海の上は陸の随分後ろを行っているのではと思うことがあります。悲しいですがパワハラやセクハラはまだまだ健在なのです。

ですが、手や足が出るのなんて、よほど命に関わること以外は論外です。

そういった事には、決して屈せずNOを突きつけましょう。いっとき我慢すれば終わる、本当にそうでしょうか?あなたがされなくなっただけで、次の代の後輩たちがターゲットになるだけかもしれませんよね?

信頼できる上司に相談する、信頼できる上司がいなければ会社に相談する。

家族や友人に話すだけで気持ちの整理もつくかもしれません。組合船ならば組合、もしくは外部の相談機関を使用するのも良いでしょう。

あなたを守れるのは、冷たいようですがあなたしかいないのです。

泣き寝入りをしていても誰も守ってくれません。声をあげましょう。あげ続けても無理で、もうどうしようもなくなってしまったら、船を降りたり会社を変わるのも手です。

大丈夫。何度でもやり直せます。体から何かしらのサインが出ている時は、無理しないでください。間違っても自暴自棄にならないでください。辞めたら逃げだ、辞めたら負けだなんて思わないで。繰り返します、あなたを守れるのはあなたしかいないのです。

一緒にパワハラ・セクハラと戦いましょう。これから業界を変えていけるのは私たち自身なのです。


仕事がうまくいく心構え⑤ ~船内融和とコミュニケーション~
 

学生時代は年上と言っても、大学や海員学校なら10個上の人たちがいたくらいでしょうか。

教官方には年配の方もいたかもしれませんが、圧倒的に若い人たちが多いコミュニティで暮らしてきた方が多いと思います。

しかし高齢化が進む船員業界、会社によりけりですが今まで関わる機会が少なかった年代の人たちと一つ屋根の下の船内で暮らしていく事になります。

船は職場であり寝食の場でもあります。船は家、乗組員は家族なんて熱血ぶるのは、あまり若い世代の人から受け入れられないかもしれませんが、それでも親しき仲にも礼儀あり。むしろ実際の家族以上にお互いを思いやって生活することが重要かもしれません。

数ヶ月その船でそのメンバーで暮らすわけですから、関係性が良いに越したことはありませんよね。前述した通り、まずは挨拶をしましょう!気持ちの良い1日と、人間関係の始まりは挨拶からです。

次に歩み寄りましょう。踏み入らないほうがいい話題、話す必要のない話題ももちろんありますが、それでも長い時間を共にする仲間でもあります。互いの歩み寄りは必要でしょう。

新卒の皆さんからしたら、話題や価値観が合わない話が多いかもしれませんが、共通の話題を探してみましょう。飼っている犬の話でも、ニュースの話でも出身地の話でも。

もしかして、パチンコ大好きなあの人が打っている台はあなたの好きなアニメでは?
 

 
海外旅行が好きなあなたは、昔、今よりもっと外航に日本人がいた時に乗り込んでいた年配の船員から、各国の面白い話を聞くことができるかもしれません。もしそれで少しでも打ち解けることができたらきっと仕事も少しだけスムーズに運ぶこともあるのではないでしょうか。

あなたが話しかけようかためらっているときは、きっと相手もためらっています。昔ながらの船員さんはどこか無骨でシャイなのです。でも騙されたと思って、話しかけてみてください。きっとこれからの船内生活において、なにかあなたにプラスになることがありますよ。


最後に
 

ここまで長々と書きましたが、なんか船ってめんどくさいな〜と思ってしまいましたでしょうか?やっていけなさそうだなと思ってしまいましたか?

大丈夫です、自信を持って、胸を張って。最初は誰でも不安です。それでもあなたを惹き込む魅力が、海の上に、船員という仕事にはあります。

私自身辛いこともたくさんありましたし、納得のいかないこともまだあるけれど、それでもこの仕事が好きです。誇りに思っています。

合わないなと思ったら一度離れてみるのも手。それでもまた戻って来たくなったら戻ってこれるくらい売り手市場です、ラッキー!

とにかく私たち現役船員は、海の上で皆様にお会いできることを心から楽しみにしています。さあ胸を張って!ようこそ船乗りの世界へ。


著者について
 
氏名:高良 明日菜(仮名)
 
職業:内航船員
 
保有資格:三級海技士(航海) 第一級海上特殊無線 小型船舶1級&特殊
 
経歴・船種: 海上技術学校➡甲板員➡三等航海士
 
船員を目指したきっかけ:小さい頃から海が好きだったから、大きな乗り物に憧れがあったから、長期の休暇が魅力的だったから
 
インタビュー・加筆修正:ITecMarin株式会社
 
写真: https://www.photo-ac.com/ , https://burst.shopify.com/

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